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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)5640号 判決

判   決

福岡市冷泉町一番地の五

原告

大益工業株式会社

右代表者代表取締役

宋文鎔

右訴訟代理人弁護士

大島英一

右訴訟復代理人弁護士

竹原茂雄

東京都中野区宮園通り一丁目十五番地

被告

岩子博行

広島市宇品町六百七十九番地の三十七

被告

高橋政登

東京都中央区日本橋江戸橋二丁目八番地

太陽生命ビル内

被告

寺見電気工業株式会社

右代表者代表取締役

寺見文夫

被告三名訴訟代理人弁護士

青山義武

右当事者間の昭和三六年(ワ)第五、六四〇号実用新案権確認等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  原告と被告岩子博行及び被告高橋政登との間において、原告が、別紙目録第一及び第二記載の各考案について、実用新案登録を受ける権利を有することを確認する。

二  被告寺見電気工業株式会社は、別紙図面及びその説明書記載の自動連続給粉機を製造販売してはならない。

三  原告その余の請求は、棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

事実

(当事者の求めた裁判)

原告訴訟代理人は、主文第一、第二項同旨及び「被告高橋政登は、原告に対し、別紙目録第三記載の実用新案権の移転登録手続並びに同目録第一及び第二記載の各考案について実用新案登録を受ける権利の出願人名義変更手続をせよ。訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。」との判決を求めた。

被告ら訴訟代理人は、「原告の請求は、いずれも棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求の原因)

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

第一  被告岩子博行及び被告高橋政登に対する確認請求並びに被告高橋政登に対する登録手続請求等について。

一  原告の商号の変更

原告は、昭和三十年六月二十四日、商号を丸中産業株式会社と称して設立されたが、昭和三十三年九月十七日、同年一月十四日設立された大盛工業株式会社(以下、合併前の大盛工業という。)を吸収し、同年九月十九日、商号を現在のとおり、大盛工業株式会社と変更した。

二  実用新案登録の出願

原告は別紙目録第一及び第二記載の各考案について、各記載の日時に、それぞれ実用新案登録出願をし、また、同目録第三記載の考案については、合併前の大盛工業が昭和三十三年六月七日実用新案登録出願をしたが、原告は同会社を吸収合併したことにより、同年九月十七日、合併前の大盛工業から右実用新案登録を受ける権利を承継し、原告は、前記各考案について実用新案登録を受ける権利を有するに至つた。

三  実用新案登録出願人名義の変更

被告岩子博行は、昭和三十四年一月二十五日、原告から、前記各考案について実用新案登録を受ける権利を譲り受けたとして、別紙目録第一及び第二記載の考案については同年七月六日、同じく第三記載の考案については同年四月十日、それぞれ実用新案登録出願人名義変更届を特許庁長官に提出した。

被告高橋政登は、被告岩子博行から、昭和三十四年七月十六日、別紙目録第三記載の考案について実用新案登録を受ける権利を譲り受けたとして、同月二十日、実用新案登録出願人名義変更届を特許庁長官に提出し、さらに、同月二十八日、別紙第一及び第二記載の考案について実用新案登録を受ける権利を譲り受けたとして、同月三十日、それぞれ実用新案登録出願人名義変更届を特許庁長官に提出した。

しかして、右第一及び第二記載の考案については、昭和三十六年四月二十五日出願公告がされ、第三記載の考案については、同年三月三十日、被告高橋政登を実用新案権者として、実用新案権の設定の登録がされた。

四  しかし、被告高橋政登は、前記第一及び第二記載の各考案について実用新案登録を受ける権利及び第三記載の考案について実用新案権を有するものではない。すなわち、

(一) 原告は、被告岩子博行に対し、前記各考案について実用新案登録を受ける権利を譲り渡したことがない。

(二) 仮に、原告が被告岩子博行に対し、右実用新案登録を受ける権利を譲り渡したとしても、右譲渡については、次に述べるとおり、取締役会の承認がないし、株主総会の特別決議もないから、右実用新案登録を受ける権利の譲渡は無効である。

(1) 被告岩子博行は、昭和三十四年一月二十五日当時には、原告の代表取締役であつたから、前記各考案について実用新案登録を受ける権利を原告から譲り受けるには、その取締役会の承認を受けることを要する筋合であるところ、被告岩子博行は、これについて取締役会の承認を受けなかつた。

(2) 給粉機の製造、販売を目的とする原告にとつて、前記各考案について実用新案を受ける権利は、原告存立の基盤ともいうべき重要な財産であり、これらの権利を失うことは、原告の存立を危うくするものである。したがつて、右実用新案登録を受ける権利の譲渡は、商法第二百四十五条第一項に規定する「営業の全部又は重要なる一部の譲渡」と実質的に異ならないものであるから、これについては、商法第三百四十三条に規定する株主総会の特別決議によることを要するものであるところ、原告が被告岩子博行に対し右実用新案登録を受ける権利を譲渡するについては、株主総会の特別決議を経た事実はない。

(三) したがつて、被告岩子博行は、前記各考案について実用新案登録を受ける権利を有するものではないから、被告岩子博行から、被告高橋政登に対する右実用新案登録を受ける権利の譲渡も無効である。

五  以上のとおり、原告は、別紙目録第三記載の実用新案権を有するものであり、同目録第一及び第二記載の各考案について実用新案登録を受ける権利を有するものである。しかるに、被告岩子博行及び被告高橋政登は、原告が右第一及び第二記載の各考案について実用新案登録を受ける権利を有することを争うので、原告が右実用新案登録を受ける権利を有することの確認を求めるとともに、被告高橋政登に対し、前記第三記載の実用新案権の移転登録手続及び第一及び第二記載の各考案について実用新案登録を受ける権利の出願人名義変更手続を求める。

第二  被告会社に対する差止請求について。

別紙目録第一及び第二記載の各考案については、前記のとおり、昭和三十六年四月二十五日、実用新案の出願公告がされ、原告は、業として右考案を実施する権利を専有するに至つたところ、被告会社は、業として、右考案の実施にかかる別紙図面及びその説明書記載の自動連続給粉機を現に製造、販売して原告の権利を侵害している。

よつて、原告は、被告会社に対し主文第二項掲記のとおり、その製造等の差止を求める。

(被告らの主張)

被告ら訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。

第一  確認請求並びに登録手続請求等について。

一  原告主張の一から三までの事実は認める。

二  原告主張の四について。

(一)の事実は否認する。被告岩子博行は、昭和三十四年一月二十五日、原告から、原告主張の各権利を譲り受けた。

(二)の事実のうち、被告岩子博行が昭和三十四年一月二十五日当時、原告の代表取締役であつたこと、その当時、原告主張の各権利が原告の重要な財産であつたこと及び原告から被告岩子博行に対し原告主張の各権利を譲渡するについて、株主総会の特別決議を経なかつたことは認めるが、その余の事実は争う。被告岩子博行は、原告から原告主張の各権利を譲り受けるについては、昭和三十四年一月二十五日取締役会の承認を受けた。

(三)の事実は争う。

第二  差止請求について、

原告主張の事実のうち、被告会社が業として別紙目録第一記載の考案の実施にかかる別紙図面及びその説明書記載の自動連続給粉機を現に製造、販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。被告会社は、昭和三十五年九月、右考案について実用新案登録を受ける権利を有し、かつ、これを実施する権利を有する被告高橋政登から、その実施許諾を得て、これを製造、販売しているものである。

(証拠関係)≪省略≫

理由

第一  被告岩子博行及び被告高橋政登に対する確認請求並びに被告高橋政登に対する登録手続請求等について。

一  争いのない事実。

原告が、その主張の経緯により、別紙目録第一から第三記載の各考案について実用新案登録を受ける権利を有するに至つたこと、被告岩子博行が原告から前記各考案について実用新案登録を受ける権利を譲り受けたとして、原告主張の日時、それぞれ実用新案登録出願人名義変更届を特許庁長官に提出したこと、被告高橋政登が原告主張の日時、被告岩子博行から前記各考案について実用新案登録を受ける権利を譲り受けたとして、原告主張の日時、それぞれ実用新案登録出願人名義変更届を特許庁長官に提出したこと、並びに、別紙目録第一及び第二記載の各考案については、昭和三十六年四月二十五日出願公告がされ、同じく第三記載の考案については、同年三月三十日、被告高橋政登を実用新案権者として実用新案権の設定の登録がされたことは、当事者間に争いがない。

二  原告から被告岩子博行に対する実用新案登録を受ける権利の請求について、

(一)  (証拠―省略)によると、昭和三十四年七月初めごろ、原告から、その当時原告の代表取締役であつた右告岩子博行個人に対し、別紙目録第一から第三記載の各考案について実用新案登録を受ける権利を譲渡したことを認めうべく、これに対する被告岩子博行本人尋問の結果は措信しがたく、他に右認定を覆するに足りる証拠はない。

(二) しかして、前記譲渡については、原告取締役会の承認を受けることを要することは、商法第二百六十五条の規定により明らかなところ、証人(省略)及び被告岩子博行は、昭和三十四年一月二十五日取締役会の承認を受けた旨供述するが、これらの供述部分は、(証拠―省略)と比照して、にわかに措信しがたく、他に、右承認の事実を認めるに足りる証拠はない。もつとも、乙第一号証(取締役会議事録)には、前記譲渡につき、昭和三四年一月二十五日午後三時から同三時三十分までの間に開かれた原告の取締役会において承認を与えた旨の記載がある。しかし、前掲(証拠―省略)によると、(い)被告岩子博行が昭和三十四年一月十二日から同年一月二十五日まで東京都千代田区の旅館に宿泊し、一月二十五日宿泊料を支払つていること、(ろ)昭和三十四年一月二十五日吉村善米(当時原告の工場長)は、原告会社に出勤し、事務所で仕事をしていたが、当日高橋貴志子をみかけなかつたこと、(は)原告の株主総会及び取締役会の議事録等の重要書類の綴りは、従来事務所のロツカーに収納されていたが、前記乙第一号証の書類は、昭和三十五年八月まで被告岩子博行の住居内に保管されていたこと、(に)ふだんから高橋貴志子の印章は、原告会社のロツカー内に保管されていたこと、(ほ)被告岩子博行と親族関係にない原告の役員は、昭和三十五年八月になつて、始めて前記乙第一号証の書類をみ、かつ前記各考案について実用新案登録を受ける権利の出願人名義が原告から被告岩子博行に変更されていることを知つたこと、及び、(へ)被告岩子博行が昭和三十四年五月ごろ、当時原告の取締役であつた竹下雅也に対し、前記各考案について実用新案を受ける権利の出願人名義を、原告から被告岩子博行に変更したい旨相談したところ、竹下雅也から反対されたことを、いずれも認めうべく、これらの事実を考慮すると前記乙第一号証の記載だけで取締役会の承認の事実を肯定することはできない。

(三)  以上説示のとおりであるから、原告から、被告岩子博行に対する前記各考案について実用新案登録を受ける権利の譲渡は無効であり、原告は、なお、各実用新案登録を受ける権利を有するものといわなければならない。したがつて被告高橋政登がこれらの考案について実用新案登録を受ける権利を被告岩子博行から譲り受けたとしても、被告岩子博行が右実用新案登録を受ける権利を有しない以上、被告高橋政登は、これらの権利を取得しうべくもないことは、いうまでもない。

三  原告は、前記認定のとおり、別紙目録第一及び第二記載の各考案について実用新案登録を受ける権利を有するものであるところ、被告岩子博行及び被告高橋政登においてこれを争うことは本件口頭弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、同被告らとの関係において、原告が右実用新案登録を受ける権利を有することの確認を求める原告の請求は、理由があるものということができる。

四  別紙目録第三記載の考案について、昭和三十六年三月三十日、被告高橋政登を実用新案権者として実用新案権の設定の登録がされたことは、前記のとおり、当事者間に争いがないところであり、実用新案権は、設定の登録により、登録名義人に対し生ずるものであるから、原告が右考案について実用新案登録を受ける権利を有していたとしても、原告名義で実用新案権の設定の登録がされない以上、原告は、右実用新案権を取得しえないことは、いうまでもあるまい。したがつて、被告高橋政登に対し、右実用新案について、その移載登録手続を請求しうべきことについて他に何らの主張もない本件においては、原告の右請求は、理由がないものといわざるをえない。

五 原告は、被告らに対し別紙目録第一及び第二記載の各考案について出願人名義の変更手続を求めているが、出願人名義の変更手続は、新名義人が特許庁長官に届け出れば足り、旧名義人の協力を要するものではない(実用新案法施行法第二十一条、大正十年法律第九十七号実用新案法第二十六条、大正十年法律第九十六号特許法第十二条、大正十年農商務省令第三十四号実用新案法施行規則第七条、大正十年農商務省令第三十三号特許法施行規則第四条、第九条ノ二参照)。したがつて、被告高橋政登に対し、右第一及び第二記載の各考案について実用新案登録を受ける権利の出願人名義変更手続を求める原告の請求は、理由がない。

第二  被告会社に対する差止請求について。

原告が別紙目録第一記載の考案について実用新案登録を受ける権利を有し、かつ、これについて出願公告がされたものであることは、前説示のとおりであるから、将来、この出願に対する登録査定、または登録拒絶の査定が確定するに至るまで、原告は、業として右各考案を実施する権利を専有するものというべく(実用新案法施行法第二十一条、大正十年法律第九十七号実用新案法第二十六条、大正十年法律第九十六号特許法第七十三条)、したがつて、この権利の侵害行為に対する差止請求権を有するものと解するを相当とする。

しかして、被告会社が業として右考案の実施にかかる別紙図面及びその説明書記載の自動連続給粉機を現に製造、販売していることは、当事者間に争いがない。なお、原告は、右自動連続給粉機は右考案のほか、別紙目録第二記載の考案をも実施した製品であると主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない。

被告らは、被告会社は昭和三十五年九月、別紙第一目録記載の考案について実用新案登録を受ける権利を有する被告高橋政登から、その実施許諾を得て、右自動連続給粉機を製造、販売しているものである旨主張するが、被告高橋政登が実質的に、右実用新案登録を受ける権利を有せず、したがつて、右考案実施を許諾する権限を有しないことは、前説示のとおりであるから、被告会社は、被告高橋政登から実施許諾を得たことをもつて、原告の差止請求を拒否することはできない。

したがつて、被告会社に対し、本件自動連続給粉機の製造販売の差止を求める原告の請求は、理由があるものということができる。

第四  むすび

以上説示のとおりであるから、原告の本訴各請求は、主文第一、第二記載の範囲においては、正当として認容すべきであるが、その余は、理由がないものとして、棄却するほかはない。よつて訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十二条本文、第九十三条第一項但書の規定を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事部第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 竹 田 国 雄

裁判官米原克彦は、退官のため、署名押印することができない。

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

別紙

目  録

第一 昭和三二年実用新案登録願第四六、四四〇号

考案の名称 粉末定量供給機

出   願 昭和三十二年十月二十二日

出願公告 昭和三十六年四月二十五日

第二 昭和三三年実用新案登録願第四九、七八〇号

考案の名称 粉末定量供給機における掻出排除装置

出   願 昭和三十三年九月二十三日

出願公告 昭和三十六年四月二十五日

第三 登録番号 第五三二、七二二号

考案の名称 粉末定量添加機

出   願 昭和三十三年六月七日

出願公告 昭和三十五年十月六日

登  録 昭和三十六年三月三十日

別紙

説明書

粉体を上部収容筒①に入れ、回転機構により攪拌翼④上部攪拌体⑤が回転する。すると粉末は開閉口⑩より下部収容筒②に送り込まれる。②が一杯になると⑩からの落下は粉体自身により止まり、そのまま下部攪拌体⑥によつて攪拌される。つぎに供給量調節機構⑧により供給盤⑦の溝中にスクレーバーを挿入するとスクレーバーの入つた厚さだけの粉体は溝の上部にあふれ供給口⑨に落下する。以上のようにしてつねに一定量の粉体が供給口より均等に落下し続ける自動連続給粉機。

①上部収容筒、②下部収容筒、③中隔盤、④攪拌翼 ⑤上部攪拌体、⑥下部攪拌体、⑦供給盤、⑧フイードメータ(供給量調節器)、⑨供給口、⑩開閉環 ⑪平歯車、⑫減速歯車、⑬供給口、方向自在留ねじ

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